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《瀬上市民の森とは》

 日本第2の大都市、横浜。1960年代以降、近郊の緑地は急速に減少しました。現在は横浜市の「横浜みどりアップ計画」やそれを支える市民の「横浜みどり税」の活用によって減少のペースにブレーキがかかってきたは言え、私たちにとって、森や水辺はなにものにも代えがたい財産です。

 横浜市では、市内の比較的まとまった緑地が残されている地域を「緑の10大拠点」として保全施策の重点化をはかっていますが、その中でも最大の緑地が円海山周辺の通称「南の森」です。

 また、この円海山緑地を中心にしたエリアを「横浜つながりの森」と呼び、生きもののにぎわいを守り、市民と自然とのふれあいの場を提供しようとしています。瀬上市民の森はこの大きな緑への入口であり、JR港南台駅から歩いて来られるという地の利にも恵まれた場所にあります。

 「市民の森」と言うと、横浜市のもっている土地のように聞こえるかもしれませんが、ここは地権者(地主さん)が横浜市と有期の契約を結んで、緑地を開発などに転用することなく、横浜市が管理し、一般の市民の立ち入りも認めているところです。有期の契約なので、横浜市も現状を大きく変更したり構造物を建てることはできず、市民が安全に散策できる遊歩道の整備など最低限の維持管理のみを行っています。

 すなわち市民の森は、地主さんの理解と協力によって、私たちが自然に親しんだり、憩いを得たりできる場所ですが、いわゆる市民公園(例:舞岡公園、本郷ふじやま公園)や環境教育施設(例:横浜自然観察の森)ではありません。

 現在、横浜市には約47か所(553ha)の市民の森があります。その中で瀬上市民の森は、昭和54年(1979年)に指定され、現在市内で3番目の大きさ(約48ha)です。遊歩道の総延長は6.3キロにも及びます。

 横浜や三浦半島では、低い丘に囲まれた小さな谷のことを「谷戸(やと)」と呼んできました。谷戸は横浜の原風景で、瀬上市民の森も深く急峻な谷戸です。横浜栄高校の下からいたち川の支川に沿った谷戸とそこにつながるいくつかの枝谷戸により構成されていて、一つ一つの枝谷戸がそれぞれ「いたち川」の源流にもなっています。また、この森を特徴づけているのが大きなため池である瀬上池で、その上流部から隣接する氷取沢市民の森にかけては深い森が続きます。また池の下流側は、かっては水田が広がり、炭焼きも行われ、里地里山として利活用された面影が感じられます。

 また、瀬上と言えば初夏にホタルが観察できることで知られていますが、それだけではなく、たくさんの「生きもののにぎわい」(生物多様性)があります。その中には在来種(昔からここにいた生きもの)や希少種(数が減っていて絶滅も危惧される生きもの)も多く、その保護も課題になっています。

谷戸に生きもののにぎわいがある理由は、狭い範囲に、落葉樹林(雑木林)、照葉樹林、竹林、ため池、田んぼ、畑、小川、湿地、カヤ場などの多様な環境がモザイクのように集まっていて、またそれぞれが隣あっていて、環境毎に棲んでいる生きものが違ったり、樹林と水辺の両方が必要な生きものがいたり、それらを餌にする生きものたちがいたりするからです。

《瀬上さとやまもりの会とは》

 かっての瀬上市民の森は、日本の多くの里地里山と同様に、農業や林業を生業とする人々が生産や生活の場として利活用してきました。水田や畑を耕作し、雑木林を定期的に伐採して薪や炭を燃料としていました。また竹は生活資材の欠かせない材料でしたし、材木やカヤ(ススキやオギの仲間)は建築に使われました。しかしながら、1960年代以降、社会や生活が急速に変わり、森や水辺に人手が入らなくなって、樹林地は荒れ、湿地は乾きました。多様な環境のモザイク模様が消えていったのです。それにつれて在来の生きものたちは減りあるいは姿を消し、外来種が増え、生きもののつながりも変わっていきました。

 昔のような生きもののにぎわいのある谷戸を少しでも取り戻したいと思っても、経済的に農業や林業が成り立たないところに地権者(地主さん)が手をかけ続けるのは難しいことです。そこで解決策としてでてきたのが、地主さんの理解と協力のもとで、行政の支援をもらいながら、市民がボランティア活動として森や水辺を維持管理する仕組みです。

瀬上さとやまもりの会は、2012年に制定された瀬上市民の森の保全管理計画を進めるため、その年の6月に、それまで長く市民の森の中で活動していた4つの市民団体が統合して新たに発足しました。地権者(瀬上市民の森愛護会)、行政(横浜市)そして市民ボランティアにより策定された「保全管理計画」や「瀬上市民の森憲章」が目指す森づくりのための、市民ボランティアによる 「森づくり活動団体」です。

現在、会員数は約60名(2023年4月現在)で、以下の3つの部会と事務局により構成されています。会全体の年間の延べ活動日数(2022年度実績)は150日を越えています。

【樹林地部会】
・植生調査、林床整理 ・倒木、枯れ木等 不要木の間伐 ・林内への侵入防止の柵作り など
【水辺部会】
・ヨシ原やオギ原など湿地の再生 ・谷戸田の再生と米作り ・川辺の安全点検 など
【生きもの部会】
・生きものの調査とデータの管理 ・希少種や在来種の保護 ・生態系保全の啓発活動 など
【事務局・会計】
 ・会の運営や調整 ・広報や渉外 ・人材育成や啓発行事 ・会の収支管理 など

 また活動の基本は、「環境調査」「環境管理(計画と作業)」「環境教育(啓発)」を組み合わせて、実効性の高い環境保全を実現することです。
 瀬上市民の森は広大です。まだまだ人手が不足していて、調査や管理や保護が行き届いていない場所や生きものがたくさんあります。近隣の市民にももっと森の魅力を伝えたいとも思っています。

そのために私たちは、「瀬上市民の森憲章」を理解し、「谷戸の保全管理」に取り組む意欲ある仲間を増やしながら、瀬上市民の森をしっかりと次の世代に残していきたいと考えています。

《瀬上市民の森 憲章》

「さとやま」は幾千の年月をかけて、先人たちと自然との関わりが生みだした貴重な文化遺産です。これらを百年、千年後の世にも伝えるため、私たちは、瀬上市民の森の谷戸の里山を守り育て、里山に護られ、育てられながら、人と自然の良好な関係を継承していきます。

1、瀬上の谷戸の景観を形づくる、樹林、ため池、小川、湿地、水田、草はらなどの多様な環境を維持していきます。
2、私たちは、瀬上の自然と人々のくらしがつくりあげてきた歴史、文化、そして技術を学び、守り、伝えていきます。
3、私たちは、瀬上の在来の生きものたちがくらしやすい環境を維持し、広げ、そのにぎわいを守っていきます。
4、私たちは、瀬上の自然と生きものに親しみ、遊び、学ぶ活動を通して、次の世代を担う子どもたちを育成していきます。
瀬上市民の森愛護会
瀬上さとやまもりの会
横浜市
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